遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (3)
朝9時には、アルル(Arles)を通過する。
ここまで渋滞に巻き込まれることもなく順調、いやむしろ早すぎるくらいのペースで運転をしている。 ガソリンスタンドでコーヒー休憩をしたときにカーナビの目的地設定をサン・ビクトール山(Montagne Sainte-Victoire)に設定しなおす。
サン・ビクトール山は印象派の代表的画家であるセザンヌが愛した山である。 おそらく世界中のほとんどの人々はこの山を彼の絵を通してでしか知らないのではないだろうか。特別に高いという山でもない、はっきりいってしまうと地味な山である。 しかし、趣味とはいえ油絵を描く人間がこのフランス後期印象派の聖地とでもいうべき山を見ずして通り過ぎるわけにもいかない。 地図を読みながら目的地を決める。
当たり前の話だが、山の山頂をカーナビの目標にしては、山は見えない。 到着する時間の太陽の位置や地図上のまわりの標高関係をかんがえながら注意深く目標地点を決める。そして山の南側のふもとにある小さな村を目的とすることにする。
エクサンプロヴァンスで高速道路を下りて、一般道路に入る。プロヴァンスのど真ん中の農道を車は走る。 雲一点ない空は、強劣なコバルトブルーではなく、むしろしっとりとしたやわらかな大気を含んだセルリアンブルーに輝く。
この季節はブドウの裸木が小高い丘の表面を覆っていて一見そっけなく感じる一方で、雑木林の木々は新芽を吹き出し明るい黄緑の葉をつけ始めている。
強烈な黄色の絨毯を敷き詰めたような菜花畑がときおり広がる。そしてところどころにテラコッタ(素焼)色の農家が風景にアクセントを添える。山が序々に大きくなってくる。道はせまくなってくる。カーナビで設定した目的地より1kmくらい手前で車を止めるスペースをみつけてそこで車を止める。
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