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Monday, 29 October 2007

【最終回】遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール


コートダジュールの空気を胸いっぱいに吸いこんだところで、駐車場に向かう。トランクに三本のロゼワインを積み込んでバルセロナへと出発する。旅ももうすぐ終わりだ。

サントロペから高速道路に向かう道の途中で大きなガーデニング店を左手に見つける。特に買い物をしたいものがあるわけでもないのだが、なにかに引き寄せられたように我々は車を店の駐車場にすべりこませた。





店の中は世界共通の草花のフレッシュな香りで満ちている。数年前、千葉に住んでいた時にハーブに凝ってよく園芸店に足を運んだものだが、草花の香りがそんな記憶を呼び覚ます。

ハーブのコーナーにいくとラベンダーの鉢がたくさん並んでいる。早咲種のラベンダーはすでに赤紫色の花をつけている。そのまわりを春一番の仕事をするかのように忙しく蜂が飛び回っている。





我々はなるべくまだつぼみの状態の鉢を選んで、蜂が葉の間に隠れていないのを慎重に確認してレジに持っていく。

店をでると、今来た道は車で込み合いだしている。彼らはこれから白いヨットと青い海を楽しみにいくのだろう。

ラベンダーの鉢をトランクにいれるのはなんとなくしのびないので、後部座席に静かにおいた。

このラベンダーが咲くころにまたここへ訪れることを考えながら、私はイグニッションキーをまわした。

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (32)

さて、パン屋探しに執心していた我々もやっとここで周りを眺める余裕がでてくる。
改めてみると港には、私有のものと思われるゴージャスなヨットが白いマストを空に突き上げて並んでいる。うん、世の中には金持ちはたくさんいるんだな。




そしてその周りの道路には、これまたパリのモンマルトルの丘以上と思われるほどの数の絵描きたちが自分の絵を売っている。なるほど、たぶんここは絵描きにとっては特別な場所なのだろう。






海岸通りのとある家の壁に街の案内看板があった。それによると街を見下ろせる城が近くにあるようだ。そこで我々は案内看板の地図を脳裏に焼き付けて、ゆるやかな坂道になっている小路に入り込む。意外とすぐに城にたどりつくことができた。



一人2.5ユーロの入場料を払って城の中にはいる。観光地としては破格に安い入場料である。はいると目の前に孔雀が壁の上にとまっている。野生のものなのか、飼っているものなのかはわからないが、檻に入っていない孔雀をみるというのは稀である。我々以外の観光客もデジカメを孔雀に向けていた。


さらにすすむともう一羽孔雀がいる。やはりデジカメを向けてシャッターを切る。
すると突然、その孔雀が鳴き出す。するとそれに呼応するかのようなさっきの孔雀も鳴き出す。ところがこの鳴き声ときたら、やたら口うるさい近所のおばさんの首を絞めたときのような(実際にそんなことをしたことはない。誤解しないように)、この世のものとは思えないくらいおぞましく不吉な声である。もう二度と聞きたくないような声である。



やはり天は二物を与えないのである。



さて、海が見える城壁に行きつく。





無数のヨットの白い帆が波頭のたたないおだやかなサントロペ湾の深い群青色にアクセントを加えていく。左手に目を移すと暗緑色の松の木の間からはサントロペの黄土色の壁と赤茶色の屋根でできた街並み、そしてその向こうには白いヨットのマストと蒼い港が見える。そして、この雰囲気をぶち壊すかのようにまたしても孔雀の鳴き声・・・。




城壁を一周して街に下りてくる。ある街角で生臭い匂いがしてきたと思ったら、小さな魚市場であった。日本では魚はスーパーマーケットで買うものだろうが、南仏やスペインでは昔ながらの魚市場が健在で、そこで魚を丸なり一匹買うスタイルが今でも根強い。


観光客が生の魚を買っていくとは思えないので、ここは、地元の人向けの市場なのだろう。

市場の横にあるワインショップに立ち寄り、三本ほどロゼワインを買う。この地方でロゼワインが有名なのかどうかは知らないが、昨晩のレストランのワインリストにもやたらとロゼワインが占めていたし、この店でもロゼワインが前面に押し出していて陳列しているので、ほぼ間違いないと思う。店のおばさんとあれやこれや会話をして楽しいひと時を過ごす。

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (31)


それでもどうにかサントロペに到着。特に何がみたいなんてものがはじめからないので、まずは駐車場の標識をみつけ、そこに車を滑り込ませる。入った駐車場はサントロペ港に隣接する公共駐車場であった。


車を降りると我々は真っ先にパン屋を探すことにする。幸い駐車場から200m離れた所にサンドイッチ屋を見つける。





厳密には焼きたてのバゲット(日本でいうフランスパン)とクロワッサンがあって、しかもそれがその店で焼き上げているところをパン屋というのだろう。しかし、そこはサンドイッチ、といってもバゲットに野菜はハムをはさんでいるので、日本でいう四角い形のパンを使ったサンドイッチとは見た目がかなりちがうのだが、そういうものしか置いていなかった。


幸いなことに家内はそこを気が付いてないのか、気が付いていても無視したのかわからないが、そこのサンドイッチ屋でパンを買うことに決めてくれた。

一個4ユーロのサンドイッチを買い、歩きながら食べる。フランスのパンにはずれはないことを前に書いたが、サンドイッチにしたときには、バターの変わりにはさんでいるチーズのおかげでこれがまたおいしい。ちなみにスペインでは、オリーブオイルをバターやチーズの変わりに使うので低カロリーかもしれないが、ベタベタして食べずらい。





しかし40過ぎの夫婦がパンを食べながら街を歩くというのは、日本では絶対にしてはいけないことなんだろうな。いずれにせよ、家内の機嫌が上昇したので一安心・・・

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (30)


最終日 月曜日

最終日の朝は晴れ。これからバルセロナの我が家へ帰る道なのであるが、カンヌより50km離れたサントロペ(Saint Tropez)に立ち寄ってから帰ることにした。サントロペこれもまた予備知識がまったくないのだが、昔どこかの絵描きがサントロペをモチーフにした絵を描いていたようなという曖昧な記憶だけが頭の片隅に残っていた。

カンヌからA8高速道路にいったんもどり、そこから3番目くらいの出口をでるとサントロペ行きの標識が見える。それをたよりに進んでいくのであるが、実はサントロペまでの道のりは意外に遠かった。小高い丘をうねうねと上がっては下るような道路が続く。そしてここでは、これまでよりもより多くのサイクラーたちを見かけることになる。





スペインもそうだが、フランスはサイクリングが「やる」スポーツとして非常に人気の高いスポーツだ。
休暇にもなると、まさに老若男女が思い思いのハデなジャージとヘルメット、横に長いサングラスをして、よくもまあこんな坂道をという道で自転車をこいでいく。あるものはハードボイルドに一人きりで、あるものは団体で和気あいあいとペダルをこぐ。

丘陵地を抜けてようやく海岸沿いの道にでる。




道路標識にはサンマキシム(Saint Maxime)と書いてある。標識の導くままに車を進めていくと、左手に海、右手にコケティッシュな店が立ち並ぶ小さなリゾート地にでる。運転している家内は今朝ホテルをでたときから「おいしいパンを食べたい」とのたまっていたので、パン屋を探すのに必死である。

たのむから前向いて運転してくれ。

結局パン屋はあったが、駐車するスペースが簡単にみつからないことから、私はサントロペに着いたらゆっくり食べようと提案。朝食を食べていないので、家内はかなり不満を示すが、結局はサントロペに車をすすめることにした。

ところが、海が見えるところまで来たのだからもう少しでサントロペかと思いきや、なかなか到着しない。それもそのはず、あとで地図を確認したら、サントロペはサントロペ湾をはさんでサンマキシムと反対側に位置する街だったのだ。つまり陸地をぐるっと回りこむような場所にあるんですね。





ここで家内の機嫌がまたもや悪くなってくる。お腹がへると機嫌が悪くなるのは私の悪い癖だったのだが、長い結婚生活の中で家内にまで伝染してしまったようだ。

教訓:悪しきものは伝染する。

Thursday, 25 October 2007

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (29)


太陽の下で飲んだビールのおかげで気分はおおらかになる。その勢いで海外沿いをカンヌ映画祭会場の方へとブラブラと散歩する。








海岸の西の端には、カンヌ映画祭の会場がある。
この正面玄関の階段には観光客用なのだろう。赤いカーペットが敷いてある。

そこでお約束のようなポーズをとって記念撮影。気分は完全にMr. Bean状態。








会場の建物のまわりには受賞者の手形をいれたブロンズタイルがたくさんあったが、カンヌ映画祭に入賞するような映画に疎い私はソフィーマルソーの手形くらいしかわからなかった。






ホテルの戻り、しばし休憩をする。その間にデジカメで撮った画像をパソコンに落とし、充電状態を確認する。

さて、夕食だ。

ホテルのレセプションでお勧めの海鮮フランス料理をだすレストランを教えてもらう。何個か候補を挙げてもらったが、その中で一番我々のいるホテルから近い、海岸沿いのカールトンホテルのとなりにあるレストランに行くことにした。



ここで旅行最後の夕食をイカ、ムール貝、エビやサーモンなどの魚介料理をプロヴァンス産の白ワインで心ゆくまでゆっくりと楽しむ。


ロマーナ風イカのから揚げ
ムール貝(ガーリック仕立)
海鮮盛り合わせ

この店は料理がおいしいだけでなく、ウェイターのサービスがすばらしかった。彼らはウェイトレスを含めて6人くらいの編成だったが、常に客のテーブルで今なにが行われているかを観察し、連携プレイをとっていく。白ワインの入っているワインクーラーに手をのばそうとすると、私のテーブルの担当ウェイターではないたまたま近くいたウェイターが突然私の方をふりむき、ワインを注ぐ。おいおい、コイツ目が後ろについているのかよ。

それから注意深くみていると彼ら同士いろいろなサインを出し合ってテーブルとテーブルの間をきびきびと歩いていく。前にも書いたが、これは、まさにフットボールの試合のようだ。こんなサービスはマニュアル化しようがないね。

マニュアルの先に最上のものは存在しないのである。

至福の気分でレストランをでて、また海岸沿いを歩く。


太陽は西の丘の向こうへと消えて、空は周囲の光りを吸いこんでピンク色に染まっていく。





桟橋に明かりが灯る。




ホテルはいっせいにライトアップを始める。





そしてひんやりとした大気が人々の腕の間をすりぬけてくる。静かにそして着実に群青色の闇があたりを包み込んでいく。

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (28)

カンヌ(Cannes)

カンヌに向かうに従い、雲間から太陽が顔をだしてくる。高速道路の出口にさしかかったころには、プロヴァンスの青い空広がっていく。雲は毛筆でさっと描いたように西の空へとのびていく。


まずはホテルにチェックイン。4つ星ホテルなので、ここは無理してフランス語を使わないで英語を使う。ポーターも完璧な英語を話す。
ポーターがどこから来たのかと聞いたので、バルセロナからだと答えると、「実は僕、スペインのアンダルシア出身なんだよ。」といきなりスペイン語で話だす。まったく、ヨーロッパにはこういうマルチリンガルな人間がゴロゴロしている。「英語は世界の共通語」なんていっているようではヨーロッパではどんどんおいてけぼりをくらう。

さて、先日来の安普請ホテルに閉口していた家内は、ミニバー付きの広い部屋に通されたるといきなり機嫌がよくなる。とはいってもベッドに寝そべりかえってしばらくやわらかいクッションの感覚を味わうような人ではないので、やはり荷物を片づけてさっそく、外へでる。


すでに3時を回っていたが、ホテルは、プライヴェートビーチを持っているため、そちらに行くことにする。もちろん我々は水着は持っていない。そのままシャツにジーンズの姿でビーチにあるデッキチェアに寝そべりながら、ビールを味わう。水着姿の若いカップル、ジーンズにブーツ姿の女性、家族連れ、土産物を売り歩く黒人の移民たちが我々の前を通り過ぎる。ある人は我々を眼の端でおいかけ、ある人はにこりと微笑みを返す。
前のデッキチェアを陣取って日光浴をしている水着姿の老夫婦は、思い思いに本や新聞を読んでいる。


私は思い立って、波打ち際に行ってみる。シューズに海水がかからないように波とリズムを合わせながら手を海水につけて、海水をなめてみたりする。ショッパイ。当たり前か・・
波打ち際から振り返ると、白と青で統一されたデッキチェアをパラソルが林立するプライヴェートビーチの向こうに、ヤシの木が並んでしる。さらにその向こうにはカンヌのランドマークともいえるカールトンホテルの白亜の壁が聳える。そしてカールトンホテルのふたつのドーム型の群青の屋根の向こうには、刷毛でさらりと描いたような白い雲とコバルトブルーの空が広がる。



そして観光シーズン前の独特の囁きといっていいくらいのざわめきが波の音と混じりあい、不思議な通奏低音を奏でる。

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (27)

モナコ

この日の宿泊予定はカンヌである。最後まで決まらなかった最終日の宿泊地だが、この旅行の「出発直前に映画Mr. Bean’s Holidayを見てあっさりカンヌに決めてしまった。
我々はある部分ではものすごく単純な思考回路をしているのだ。

カンヌもイタリア国境から100kmも離れていないコートダジュールに位置する街だ。もちろん映画祭で有名。あとは予備知識まったくなし。
イタリア国境を超えたのが11時ちょっと過ぎだから、到着は午後でも大分早い時間になってしまう。どうせだからついでというわけでモナコに立ち寄ることにする。こちらもカジノの街だということと、くねくね歩きをするおじさん(デューク更家?)が住んでいる(後で確認したら彼の家族が住んでいるということだった)というこれまたお粗末な話だ。


A8高速道路からモナコへの出口をぬけるとやたらとくねくねした下り坂になる。細心の注意を払いながらハンドルを操作する。前を走る車はランボルギーニ、すれ違う車はポルシェ、マセラッティ、フェラーリ・・・いったいどんなところだ、ここは!


坂道の途中で駐車できるくらいのスペースを見つけ、そこに車を止めて眼下に目をやる。モナコは断崖絶壁の地形のところにピンク色の屋根の家が張り付くように密集している。そして中心部と思われるところには、高層ビル(ホテルかマンションかはわからない)が林立している。この高層ビル群がコートダジュールのほかの街と一線を画しているといえる。あいにくの曇り空だが、遠目にはヨーロッパのどこの街よりも群を抜いてソフィスティケイトされたその風景に、異様さすら感じる。


カーナビだよりで市街地図を持たない我々はとにかく坂道を下るだけ下って、めくらめっぽうに車を走らせる。するとなぜかうまいことに一番大きなカジノハウスの横の駐車場に空きを見つけて車を滑り込ませることができた。日曜日ということでさほど混んでいないことが幸いしたのだろうか。

車を下りてまず街を散策してみる。ここは、ヨーロッパとはまるで違った雰囲気がある。道路に駐車している車種からして違う。



フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベンツ、マセラッティだ。ルノーもプジョーもシトロエンもほとんど見かえることができない。

歴史の香りがしない。そして即物的で享楽的だ。そして異様に綺麗だ。ゴージャスといってもいい。完全に人間によってコントロールされている気配を感じる。

ラスベガスから、子どもじみたファンタジー要素をとっぱらってギューっと圧縮したような街だ。カジノで食べているんだから当たり前の話だろうけれど・・・

崖の上から見たビルは地上からみると思ったよりも高い。ヨーロッパでは本当に一部の地区を除いて高層ビルを建てられないところが多いから、この摩天楼は新鮮にさえ映る。

海側にでてしばらく散策してみる。海といっても砂浜があるわけではない。コンクリートでできた建物の屋上部分を歩いているだけだ。そこには、花壇があり20世紀の彫刻作品がならんでいる。
今にも雨が降りそうというわけでもなく、これから晴れそうな雰囲気もない。中間的な曇り空とでもいっていいのだろうか。海の色もブルーグレイだ。ほんの少しの風でも肌寒く感じてしまう。
日本人観光客がパシパシ、デジカメのシャッターを切っている。



冷やかしでカジノを覗いてみる。写真を撮ろうとしたらボディガードにやんわりと注意される。我々はすごすごと退散する。ギャンブルする気がないのだから、それ以上いる意味がないしね。

街を歩いている人は意外にも家族連れが多い。ラスベガスに行っても思うのだが、いったいどういう人たちが家族づれでこんなギャンブルの街に遊びにくるのかよくわからない。

私はカジノのギャンブルはやらないことにしている。
理由はただひとつ。

「勝てない試合にでてどうするのよ。」

たまに勝たせてもらえる人もいるようだけど、絶対に勝てないしくみになっている。ブラックジャックだって、ルーレットだって、スロットマシーンだってすべて胴元が勝つようにできている。そこには偶然性のはいる余地はない。科学的、数学的、統計的に彼らが勝つようにできているのだ。(細かくかくと長くなるのでやめておくが)それを知らないでギャンブルに興じている姿は痛ましくさえ思う。

なぜみんな夢中になるのかよくわからない。とにかく、お金をゴミ箱に捨てる行為としては時間がかかりすぎる。50ユーロでギャンブルするくらいなら素直に50ユーロを街角のゴミ箱に捨てたほうが時間の無駄がなくていい。

そそくさと車に戻り、カンヌへ向けてカーナビを設定して発進する。今にも崩れそうな不気味で長いトンネルを抜けてA8高速道路に戻る。ということであまりモナコにはいい感想がない。まあ、それでも「今まで行ったことがある国」が一つ増えたことにはなる。二度といかないと思うが・・・

Thursday, 18 October 2007

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (26)

トスカーナをドライブする

4日目 日曜日

いよいよイタリアを発って帰路につく。
帰り道はピサまで高速道路ではなく一般道路を通って帰ることにした。ちょっとでもトスカーナの田園風景を楽しみたいと思ったからだ。

日曜早朝のフィレンツェ市内は車がほとんどなく快適なドライブが楽しめる。片道3車線の広さの道路にでたところで家内がつぶやく。

「ちょっと、これ、車線がないじゃないの!?」



「いいんだよ。イタリア人は顔をみて運転してるんだから、車線なんて不要なんだよ。きっと。」

ゆったりとしたカーブとゆるやかな坂の上り下りをくり返しながら車はトスカーナの田園地帯をすすむ。靄がかかっていて遠景がみえないのが、かえってミステリアスな雰囲気を醸し出している。

時折、車を路肩に止めて写真を撮りながら、イタリアの空気を肌に記憶させる。

ピサまで来ると道は平坦でまっすぐになる。A12高速道路に乗ると車をオートクルージングに切り換えて、家内とラテン人の気質についていろいろと話し合う。


スペイン人はたしかに親切だ。少なくとも、気持はそうだ。しかし実際に行動にうつしたときに行動する能力がないために親切が仇になることがある。


フランス人は、よくいわれるほど冷たいことはない。人に対する接し方が洗練されている分だけ、冷たい印象が残ってしまうだけなのではないだろうか。フランス人が冷たいという印象は、英語しか話せない英米人がやっかみ半分で考えただしたことだと結論づける(大暴論)

そして、イタリア人に対するイメージについては、今回は保留することにした。なぜならこの2日間にあった出来事をあらためて振り返ってみると、我々がイタリア語を理解していないことに起因する問題がかなりあったのではないかと思い始めたからだ。

どうしても言葉がわからないと人に対して用心深くなってしまう。それは当たり前のことなのだが、そういう状況では相手が親切で申し出たことについてもこちらが身構えてしまう。実は我々が認識していないところでいくつもあったのではないかと思う。


うん、今度はきちんとイタリア語を勉強して(私がするのか家内がするのかも保留にしているが)ミラノ、ヴェネティアに行こうと結論をだしたところで、イタリア国境を越えて、またフランスへ戻る。

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (25)






6時をまわったくらいに、前日の夕食の帰りにやたらと行列ができていたレストランに向かう。





窓越しにピザの生地をこねているのが見える。開店は6時半だといわれ、しばらく近くのバーでビールを飲んで時間をつぶす。本当に今日はビールを飲んでばかりの一日だ。

30分くらい時間をつぶした後、さっきのレストランに戻る。このレストランでは入口にピザを焼く窯が据え付けてあり、ピザを焼いている様子がわかるようになっている。窯にカメラを向けたら職人さんがちゃんとピザを窯にいれるポーズをとってくれた。こういうところは、すごくかわいいと思う。



店の中は照明がかなり暗いがカジュアルな雰囲気である。我々は、またしてもピザとパスタ、そしてサラダ、トスカーナ風の肉料理とトスカーナの赤ワインを注文する。


素朴な味のトスカーナ風料理




アーティチョークというヨーロッパでは冬の名物野菜をつかったソースのパスタは絶品だった。ピザにもアーティチョークがそえられていた。この野菜は日本ではなじみが薄い野菜でしかも独特の香りがあるので好き嫌いがわかれるが、食べつけるとやめられなくなる食材だ。


アーティチョークソースのパスタ

ほろ酔い気分で、ホテルに戻る。暗いホテルの一室で交互にシャワーを浴びている間、テレビを眺める。安ホテルなのでケーブルテレビはない、全局イタリアの地上波放送だ。

朝晩と別のチャンネルでいろいろなイタリアのニュース番組を見ていたがある共通点に気がつく。

イタリアのニュース番組の女性アナウンサーは他の国とあきらかに違う基準で選ばれているような感じがしてしかたがない。具体的にいうと、イタリアの女性アナウンサーはバストが大きく(しかも、それを強調するような服を着ている)、目がトロンとした感じで、口元も幾分下がっている。一言でいうとセクシー、それも肉感的にである。逆からいうと全然理知的に見えないんだな。



このあたりは視聴者、製作者ともどもイタリア男性の好みがモロにでているようで面白い。

先のダヴィデのパンツといい、こいつら・・・・

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (24)

街全体が美術館と化したようなこの街の石畳を足の裏に感じながら、ミケランジェロ作のピエタ像が収蔵されているというオペラ博物館に向かう。





ミケランジェロの作品だけが目当てだったのだが、ここには本来であればドゥオモにあるはずの彫刻群が多数陳列されていた。なるほど、だからドゥオモ内部はがらんとしていたわけね。


ピエタ:ミケランジェロ作

一般的には、かなり有名な大聖堂でもお金をとって拝観するということあまりしない。やはり大聖堂は神との対話の場所であり、富める者にも貧しい者にも等しく開放するものという建前があるからだと推察する。私の知る限りではお金を払わないと入れない大聖堂というとイギリスのソールズベリー大聖堂とバルセロナのサグラダ・ファミリア教会くらいだ。もっともサグラダ・ファミリア教会は建設中ということで神様がまだいないから有料でもかまわないのかもしれない。

そうなると観光客からお金を巻き上げるには、別途博物館を設けてそこに宝物を収蔵するという方法はたしかに有効だ。イタリア人もうまいこと考えたものだ。



日がだいぶ傾いてきたが、まだ夕食には早い。メロレンツォメディチ図書館前の広場の露店を物色する。
ダヴィデ像の局部をアップにした図柄のブリーフやらエプロンがやたらと目につく。こういうのがイタリア的ユーモアなのだろうか。こういう性的なものを露骨にだすセンスにはちょっとひいてしまう。



スリにとっては格好のフィッシングポイントとなる混雑した市場で突然、怒号が響き渡る。地元のイタリア人らしい男性が黒人に対して罵声を浴びせている。ここでは昔から商売をしている地元のイタリア人と新興勢力である不法移民黒人勢力が摩擦をおこしているようである。くわばらくわばら。

Tuesday, 16 October 2007

遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (23)



タクシーは丘の頂上の広い駐車場に到着する。
チップを奮発して礼をいってタクシーを降りる。
我々は心なしか急ぎ足で駐車場の間をすりぬけて展望台へと向かう。

そして・・・・・・・息をのむ


女性の肩のラインを思わせるようなセクシーなトスカーナの丘をバックに、ピンクの屋根が絨毯のように市内を覆い尽くす。ドゥオモの堂々としたヴェネティアン・レッドの円形屋根と白い塔、オーカー色のヴェッキオ宮の塔がまるでピアノ三重奏のように調和を保ちながらそびえ立つ。眼下には、コバルト色のアルノ川が流れる。そして川を眺める視線は左側にあるヴェッキオ橋を過ぎて、さらにトスカーナの平原へと消えていく。

春の風が頬をやさしくなでていく。午後の強い日差しの中、空は抜けるようなコバルトブルー。この旅のハイライトといっていい風景が眼前に広がる。メンデルスゾーンの交響曲「イタリア」が頭の中で響く。

これぞ至福の時。

展望台のところで水彩スケッチをする。広大な景色をはがき代の紙に収めるのはかなり無理がある。でも大事なのは、景色を脳裏に焼き付けることだと信じて描く。

家内は土産物の露店でショールを買った。日中は二十度を超えるというのに、家内は寒い寒いと嘆いている。私はというとシャツ一枚で平然としている。きっと私は寒冷地仕様にできているのだろう。
ちなみにヨーロッパの中では、スペイン人が寒がりだ。フィレンツェの人ゴミの中でも厚着をしている団体はスペイン人だと簡単にわかってしまう。


スケッチをすませて、今度は階段を降りながら市街地へと戻っていく。アルノ川にそって歩いていると、川辺で三人の若い女性がビキニ姿で日光浴をしている。肌の色からしてドイツ人だろうか。とにかく北欧・ドイツの人は日光浴が大好きだ。

途中、カフェでビール休憩をいれながら、市街地の狭い路地をあちこちさまよう。バルセロナと違って、旧市街地でも壁に落書きがないから気持がいい。


遥かなるトスカーナ、静かなるコートダジュール (22)



ドゥオモへと戻る。

朝はウフィッツィ美術館の入り口に並ぶためにさっさと通り過ぎたので再度じっくり見ようと思ったからだ。





朝とはうって変わって観光客の山、山、山。

耳を傾ければ、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、中国語、日本語、ロシア語、まあよくもこれだけと思うほどにさまざまな言葉が飛び交っている。

ドゥオモの内部を見学する。

これがまたあっけにとられるくらいに何もおいていない。奥の丸天井に壁画がかかれているほかはほとんどがらんとしてる。(がらんとしている理由は後になって判明するのだが)
そのくせ観光客でごった返しているから敬虔な雰囲気すらない。早々に右手の出口から退散する。


聖堂をでると今度は観光客の長い行列にでくわす。

ドゥオモに隣接した塔に登るための列である。ゆうに200人は並んでいた。はじめ家内はここに上ることを主張したが、列を作っている人の数と行列の進行の遅さをみてあきらめた。結局、イタリアで高い建物登ることは一回もできなかったことになる。

ここまで歩いて我々はどうしても観光写真によくあるフィレンツェの街全体を見渡せる場所にいきたくなった。

とはいっても我々は車のカーナビだけをたよりにきているので地図を持ち合わせていない。
そこで、ウフィッツィ美術館前の広場にもどり、広場の中央に陣取っている土産物露店をのぞく。





ウフィツィ美術館広場の前にある銅像群

まず絵葉書をみて、そこからどの方角からとった写真なのかを検討つける。次に土産物屋で一番安い市街地図(2ユーロ、約300円)を購入して場所を確認する。

これだ。

アルノ川をまたいで1kmくらいのところにあるミケランジェロ広場。

我々はさっそくタクシーを拾おうとしたが、フィレンツェ中心街は観光客でごった返し、歩行者天国状態になっていてタクシーが入り込む余地がない。
タクシーを拾える場所までかなり歩かなければならないかなと思った矢先、観光客であふれかえるウフィッツィ美術館前にタクシーで行きたいというトンデモな客を運んできたタクシーが目の前に現れる。タクシーが客をおろすやいなや、我々はすぐに乗り込んで行き先を地図で示す。これは本当にラッキーだった。

目的地のミケランジェロ広場は小高い丘になっているので歩いていく分には階段が使えるのでさほど距離はないが、タクシーだとかなり迂回しないとその場所にはたどりつけない。結構タクシーの料金はかさんだがやむなしだ。